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Flower of life

映画をよく観てます

感想:「潜水服は蝶の夢を見る」ありきたりな感動とは縁を切れ

 


「潜水服は蝶の夢を見る」日本版予告編 - YouTube

 

 何度かひとに勧められたので借りてみました。すてきなタイトルです。すごくぴったりで、詩的で、印象的です。この映画は実話をもとにしていて、ざっくりあらすじを言うと、世界的に有名な雑誌の「ELLE」の編集長が突然発作をおこし、全身が麻痺する後遺症を患ってしまうがまばたきだけで意思疎通を行い、最終的に自伝を残す、というもの。

 こういう病気や障害を扱う実話をもとにした物語はいままで量産されてきたけれど、今回の映画を観てそのどれもが大体商業目的で改変されているんだな、と思いました。といってもそんなにそういうテーマの作品を好んでみるタイプではないので、例をあげるとしても中学校の頃にみた「1リットルの涙」くらいしかあげられないんですが、こういうのは実話に基づいていても、必ず山場のようなものがあったり、感動的なやりとりがクローズアップされているように思うんですね。

 今回の作品は、とくに目立った山場も感動的なシーンも(お父さんとの会話のシーンは耐え切れず泣いてしまいましたが……)なくて、それは実話をただ淡々と時に芸術的に描いていたからだと思います。1リットルの涙は家に原作がありますが、ドラマに登場した男の子の恋人なんておそらく原作にはいなかった覚えがあります、なのでドラマにするにあたりいろいろ手を加えているのでしょう。そういった面では、すごく実話に寄り添っていて、誠実な姿勢で向き合っている作品だと思います。原作を実際に読んでいないので全部がその通りなのかはわかりませんが、無駄な脚色はついていないだろうと思うくらいに、淡々として展開もすくないです。

 

 彼の身動きがとれない自由がきかない現実と、彼の想像の世界が交互にいれかわり、映像はとても美しいです。先日何かの記事で、障がい者を感動ポルノとしてみんなは扱う、という内容のものを読みました。それはほんとうにそうだとおもいました。誰も悪気はないんだけれど、たいてい障害のあるひとの話は感動エピソードと抱き合わせでひとびとに提供されているものだから、みんな障害のあるひとの話には感動できるエピソード、元気づけられる姿が見出せるものだと無意識におもってしまっているんです。わたしもそうだと思います。意識して感動できるエピソードをそこから漁りだそうとはしなくても、心のどこかでそういうものがあるものだと認識していまっているのは否定できないと思います。

 今回の話は後天的なものだったので、障害ができてしまう前とくらべてあれができない、これができないということに意識がいってしまうとは思いますが、先天的だった場合、障害を障害とみなす社会そのもののほうがよっぽど当人にとって障害になりうるんだってことを、その記事で意識して考えられるようになったので、こういう気づいていない色眼鏡に気づくきっかけをこれからも取り入れていきたいです。

 話がだいぶそれてしまいましたが、とにかくこの映画は、瞬きだけで自伝を残したという途方もない功績こそあれど、それ自体が感動に直結されるような演出もなくて、彼の人生そのものでした。障害をもったひとの話を映画にするなら、これが理想の姿勢だと思います。脚色して万人に受けのいいものを作って、それでよりたくさんのひとに知ってもらう機会がつくれたとしても、その脚色した話は実際のそのひとのお話じゃないので、やっぱり商業的利益しか最後には残らないと思います。テレビやドラマで何度も経験させられた感動は、作り物だからみな同じような感動を受けるのだ。

 

 彼の性格や行動に共感などはできないけれど、その生涯を美しい映像でみて、観終わった後にいろいろなことに考えを巡らせ、美しい映像のフラッシュバックを堪能できる、いい映画です。

 

 

おわり